東京高等裁判所 昭和34年(ラ)130号 決定
会社更生法は、窮境にあるが再建の見込のある株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的とするものである(同法第一条参照)。同法第三八条第五号で、更生の見込がないときは、更生手続開始の申立を棄却しなければならない旨を規定しているのもこのためである。ここに、「更生の見込」というのは、企業の解体を防止してその事業を維持できることが期待できるかどうかということである。会社更生法は、一旦更生手続が開始されても、その後の経済情勢の変動や、利害関係人の意向が一致しなかつたりすることなどによつて、更生手続が所期の目的を達成し得ない場合に備えて、更生手続の廃止(同法第二七三条以下参照)又は清算を内容とする更生計画案の作成を許可(同法第一九一条参照)する措置を講じているから、「更生の見込」ということは、一般的にいつて、常に必ずしも当初から成功が確実であるという場合に限ることなく、消極的に企業の解体による社会的損失を防止できる一応の見込があればたりるものと解せられる。しかし、現在の社会的経済的情勢や、会社の債権者その他の利害関係人の動向などから考えてみて、更生手続による企業の維持更生という目的が終局的には達成できないことが客観的に認められる場合には、更生の見込がないものとして更生手続開始の申立を棄却するのが相当であると解せられる。(中略)
昭和三十四年十一月二十八日附で管財人長島兼吉、同滝口マチから原裁判所に更生計画案が提出せられた。右計画案によると、相手方会社には、債務の弁済に充当するために、一部資産を処分して換金すべき物件に見るべきものなく、債務弁済資金の根源は、今後売上増進による営業収益にまたなければならないのであるが、その債権額及び過去の欠損額が莫大であるので、収益のみで弁済するには長年月を要するとなし、その計画案は、優先的更生債権及び更生担保権以外は債務の一部免除を受け、昭和四十三年九月三十日を最終弁済期と定めた割賦弁済を骨子とするものであつて、なお右計画案には、本計画の完全遂行の実を挙げることは必ずしも容易とはいい難く、債権者を始め各方面の一層の支援にまつところが大きい旨記載されている。右計画案は、その後開かれた関係人集会で審理された結果、管財人から一部修正案が提出され、右関係人集会の続行期日で審理されることとなつているのであつて、本件更生手続開始決定後一年七月余を経過した現在、未だ更生計画案可決のための関係人集会が開かれる段階にも至つていない。上記認定の諸事実に徴して判断すると、相手方会社が更生手続による企業更生を図るにしても、営業収益増進のためには、流動資金の導入が先決問題であり、金融機関の理解ある協力を必要とするわけであるが、相手方会社と取引のあつた金融機関はすべて非協力的であつて、他に金融機関があつても、そこから新融資が受け得る見込あることすらこれを認めることのできる資料はないので、相手方会社の企業の維持更生を図り、その負担する多額の債務を割賦償還してゆくことは、甚だ困難であることが窺えるばかりでなく、本件更生手続開始決定を維持してこのまま、更生手続を進行させても、徒らに長年月を費し、混乱と紛争を重ねることとなり、少くとも更生担保権者に対する関係では更生計画案可決のために会社更生法第二〇五条所定の必要な最少限度の法定額の同意をも得る見込のないことが明らかである。(本件更生手続に反対していない川瀬惣吉の更生担保権者としての議決権の額は、更生担保権者全員の議決権の総額の四分の一に満たないことは上記認定の事実に徴して明らかである)。
以上に説明したところによつて明らかなように、本件については、会社更生法第三八条第五号にいわゆる「更生の見込がないとき」に当るものと認めるのを相当とするので、相手方会社のなした本件更生手続開始の申立は棄却を免れない。
(村松 伊藤 杉山)